家元のことば

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「節湯」

 新春、自宅の風呂に浸かりながら、いろいろなことを想います。
去年の反省、今年の目標。自分の心はさながら真っ白なノートのようです。
寒々とした青空に立ち上る湯気を見ながら、ふと閃きました。

 そうか、正月はそのためにあるのか!

 私たちは新しい年を迎えることで、それまでの一年をリセットし、
新鮮な気分でまた歩み始めることができます。
正月のない動物たちは、どういう気分で年を重ねてゆくのでしょう?
きっとすべての時間が連続していて、すべてを抱えたまま老いてゆかねばなりません。
しかし、人間には暦があります。
正月はひとつの大きな節目。
気持ちをいつも新鮮に保つことは、生きがいの創造につながります。

ではここで、少し視点を変えてみましょう。
大きなリセットは一年に一度。
けれども小さなリセットは毎日できます。

入浴です。

風呂に浸かり、その日あったすべてのことをお湯に流す。
嫌なことは忘れ、良かったこともリセットし、
謙虚であることを心に留めて、感謝の気持ちに変える。
「節湯」という言葉が浮かびました。

 湯に浸かり、日々新鮮な気持ちでいられたなら、
真っ新な心は何色にも染まることができるのです。



                              小山薫堂