タコさんの記憶

家のお風呂

うちのお風呂は少し熱めだったからなのか、幼いころ、湯船に浸かるのが苦手だった。
「肩まで浸かって10かぞえる」と父は呪文のように唱えていたが、
それを頑なに拒んでいた記憶がある。

ある時父が、タオルを湯船に浮かべ、『タコさん』を作ってくれた。
ぷっくりふくれたタコさんは、湯に沈むとブクブクと息をし始めた。
ワタシはタコさんに近づきたくて、浸かれなかった湯船に飛び込んだ。

「おとうさん、もういっかい、ブクブクして。」

タコさんはまたふくれて、ブクブクと湯の中に帰っていく。
最後は、二人ともがゆでダコになるくらい、もういっかい、ブクブクを繰り返した。

一人浸かる湯船で、不意に思い出された記憶。
「お父さん、『タコさん』覚えてる?」
お風呂上がりに、電話してみようかな。

ゆりまろ