八百万の幸福
お風呂の幸せ作文コンクール 「健美薬湯賞」受賞作品
お風呂のなかでは時間が止まる。
目を閉じていてもいなくても、時計があってもなくても、
銭湯でも露天風呂でもユニットバスでも、湯に身体を浸しているあいだは、
容赦ない時の流れからひょっこり逃れていられる気がする。
一糸まとわぬ無防備な姿でいるのに、なんだか無敵な心持ちになる。
すっぽんぽんこそ、最強かもしれない。日常の些末なできごとを思い煩うのが、
とんでもなく馬鹿々々しくなるから。
誰だって、余計なものを脱ぎ捨てて、身軽になるのは快いはず。
そしてお風呂では、それが当たり前に行われる。お風呂とはなんと神聖な空間なのだろう。
八百万の浴場が、いつもいつでも待っていてくれる。
しゅわしゅわのお湯、ぶくぶくのお湯、びりびりのお湯。気の利いたスーパー銭湯には、
まるで遊園地のように多種多様な浴槽が用意され、ひとの心と体を和らげる。
ひとたびお風呂のとりこになれば、 日本各地、いや、世界各地の天然温泉を巡るのも
さぞかし愉快にちがいない。
とはいえ家に居たって、甘いジュースみたいにカラフルな入浴剤の魔法にかかれば、
たちまち、ときめく気分を演出してくれる。なんと素敵なことだろう。
お風呂の可能性は無限大だ。つまり、お風呂好きの幸せも無限に広がっている。
さっ、一旦時間を忘れて、ざっぶーんと湯舟に浸かろうか。
煌餅