わたしの夫と入浴剤

お風呂の幸せ作文コンクール 「ノーリツ賞」受賞作品

 うちの風呂掃除は夫の仕事だ。夫が風呂桶を洗ってくれている間に
わたしは出来たての夕飯をテーブルへ並べる。風呂掃除を終えてリビングへ戻ってきた夫は、
テーブルに並んだほかほかのご飯を見て嬉しそうに目を細める。

 夕飯を終えると、夫はわたしに「先にお風呂入りな」と言う。
じゃあお言葉に甘えて、わたしは一番風呂をもらうことにした。

 服を脱ぎ、裸になって軽く体を洗い、風呂桶からたちのぼる湯気を全身に浴びながら
入浴剤をいれる。途端、しゅわしゅわと泡が弾けるような音がした。炭酸泉だ。
嬉しさと共にざぶんと肩まで湯につかって、ほうっと息を吐く。

 結婚して三ヶ月。わたしたちは数週間前に入浴剤を風呂に入れるかいれないかで大喧嘩をした。
夫はいらないと言い、わたしは絶対入れたいと言って聞かなかった。

 今思い返してもくだらない喧嘩だ。けれどお互い意地になり、喧嘩は翌朝まで持ち越され、
一晩経ってようやく頭が冷えてごめんね、と互いに謝った。夫がわたしに合わせてくれる形で、
我が家のお風呂には入浴剤を入れるということで落ち着いた。

 うちの喧嘩は大概そうだ。よく言えば情緒豊かな、悪く言えば些細なことで火がつきやすい
わたしに夫が合わせてくれている。言いすぎたな、と思いわたしのほうから謝ると、
夫は決まって「いいよ」と許してくれる。
「僕は自分から謝るのが下手だから、喧嘩をした時、君がいつも自分から謝ってくれることに
助けられてる」と笑う。
わたしのほうこそあなたの寛大さに助けられている、と思うのだけれど、
恥ずかしいのでまだ言えていない。入浴剤の入った湯船に浸かるとき、
わたしはいつもあのしょうもない喧嘩と、夫の寛大さを思い出す。

 首元までお湯に沈めると、しゅわしゅわとした泡が肌をくすぐる。夫のおかげで今日も我が家のお風呂は気持ちがよい。

岩月すみか